後遺症とは、これ以上治療を継続しても症状の改善が望めない状態になったときに残存する障害をいいます。
給与所得者 | 原則として事故前の年収を基礎年収とします。証明資料としては、通常、事故前の源泉徴収票が用いられます。もっとも、現実の収入が統計値である賃金センサスの平均賃金以下の場合であっても、平均賃金程度の収入が得られる蓋然性があれば、平均賃金を基礎年収とすることもあります。また、30歳未満の若年労働者においては、全年齢平均の賃金センサスを用いることを原則としています。これは、学生の逸失利益算定にあたっては、賃金センサスの平均賃金を用いていることとの均衡を図るためです。 |
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主婦 | 家事労働も財産的な評価をすることは可能ですから、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の女子労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とする扱いになっています。
なお、有職の主婦の場合には、実収入が上記の平均賃金以上のときは、実収入に従い、それ以下のときは平均賃金に従うこととされています。 |
会社役員 | 役員報酬のうち、労務提供の対価部分と利益配当の部分を分けて、労務提供の対価部分のみを基礎年収とします。 |
個人事業者 | 原則として事故前年の確定申告額を基礎年収とします。税金対策のため過少申告していて、現実の収入はそれ以上であると主張する方がいますが、このような主張は通常は認められませんていないときでも、相当の収入があったと認められるときには、賃金センサスの平均賃金を基礎とすることが認められています。 |
失業者 | 労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるときは、原則として失業以前の収入を参考として基礎年収が決められます。ただし、失業以前の収入が賃金センサスの平均賃金以下であっても、平均賃金を得られる蓋然性があれば、男女別の平均賃金によることとなります。 |
幼児・生徒・学生 | 原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者全年齢平均の賃金を基礎年収とします。なお、女子の場合は、男女別ではなく、全労働者全年齢平均賃金で計算すべきという判例がありますので、その判例に沿って請求すべきです。 |
高齢者 | 就労の蓋然性があれば、原則として、賃金センサスの産業計・企業規模計・学歴計の男女別労働者年齢別平均の賃金を基礎年収とします。 |
被害者が損害賠償を請求できる逸失利益や慰謝料の金額は、後遺症がどの等級に認定されるかによって大きく影響をうけることになります。この等級は1級から14級まであり、1級が一番重く、14級が一番軽いものです。しかし、むち打ち症のように被害者自身には自覚できる後遺症があっても、それが必ずしも後遺症の等級として認定してもらえないこと(非該当)も現実に多く存在します。
後遺症を負った被害者による損害賠償請求にあたっては、後遺症の実態をより正確かつ適切に反映した等級の認定を得ることが極めて重要になります。後遺症害の等級認定に不服がある場合には、異議申立てをすることができます。
異議申立ては、事前認定の場合には、被害者が任意保険会社に異議申立てを行い、任意保険会社が算出機構に対して事前認定に対する再認定の依頼をすることになりますが、被害者が異議申立ての理由等を記載して任意保険会社に再認定の申請を依頼しても、任意保険会社が必要ありと考えない場合には、その申請を行わないこともあり得ますので、被害者請求に切り替えて異議申立てをすべき場合があります。被害者請求の場合には、自賠責保険会社に対し申立書を提出します。異議申立てのためには、反論すべき根拠を書面にして主張する必要があります。ただし、反論するためには新たな資料が必要になります。そこで、診断医の意見書、専門医による新たな診断書、未提出の各検査の結果、交通事故の刑事記録などを用意する必要があります。
後遺症別等級表・労働能力喪失率は次の文字をクリックしてご覧下さい。
後遺障害が発現すれば、それ自体に対し、慰謝料が認められます。入通院の慰謝料とは別です。
この慰謝料の額も、原則として後遺障害等級によって判断されています。
そして、その等級に対する慰謝料の金額基準は下記3種類があります。
裁判所の慰謝料(平均) | 任意保険の慰謝料 | 自賠責保険の慰謝料 | |
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1級 | 2600~3000万円(2800) | 1300万円 | 1100万円 |
2級 | 2200~2600万円(2370) | 1120万円 | 958万円 |
3級 | 1800~2200万円(1990) | 950万円 | 829万円 |
4級 | 1500~1800万円(1670) | 800万円 | 712万円 |
5級 | 1300~1500万円(1400) | 700万円 | 599万円 |
6級 | 1100~1300万円(1180) | 600万円 | 498万円 |
7級 | 900~1100万円(1000) | 500万円 | 409万円 |
8級 | 750~870万円(830) | 400万円 | 324万円 |
9級 | 600~700万円(690) | 300万円 | 245万円 |
10級 | 480~570万円(550) | 200万円 | 187万円 |
11級 | 360~430万円(420) | 150万円 | 135万円 |
12級 | 250~300万円(290) | 100万円 | 93万円 |
13級 | 160~190万円(180) | 60万円 | 57万円 |
14級 | 90~120万円(110) | 40万円 | 32万円 |
※この額もあくまでおおよその基準であり、絶対的なものではありません。
後遺症の症状固定後の将来の介護費用につき、職業付添人の場合は実際に支払った介護料全額、親子や配偶者等の近親者の場合は、常時介護か随時介護か等の具体的状況に応じて金額が増減しますが、1日あたり6500円~8500円が賠償すべき損害として認められています。
介護を要する期間は、原則として、被害者の生存期間であり、厚生労働省が作成している簡易生命表の平均余命により算定するのが実務の大勢です。
簡易生命表は次の文字をクリックしてご覧下さい。
介護費の支払いにつき、一括で賠償する方式でなく、定期的に賠償する方式を認めた裁判例もあります。ただし、被害者側が一括での賠償を求めている場合には、裁判所が定期的に賠償するよう加害者に命ずる判決をすることはできません。 将来の介護費用について次のような裁判例があります。
裁判年月日 | 事例 | 賠償額 |
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神戸地判 H13.7.18 |
後遺障害併合1級の被害者(51歳男子)の将来の介護費用について、65歳以降は介護保険の介護サービスを受けることができるという加害者側の主張を考慮せず、平均余命の全期間を通じて日額¥10,000で認めた事例 | 将来の
介護費用: 約5,438万円 |
東京地判 H15.8.28 |
後遺障害併合1級の被害者(21歳女子)の将来の介護費用について、母親が67歳になるまでの期間は日額¥11,692、それ以降は日額¥24,000で平均余命分を認めた事例 | 将来の介護費用: 1億3,200万円 |
東京地判 H16.6.29 |
後遺障害1級3号の被害者(27歳男子)の将来の介護費用について、母親による介護が可能な期間は日額¥8,000、家族介護と職業介護を併用する期間は日額¥15,000、職業介護のみの期間は日額¥20,000で認めた事例 | 将来の介護費用: 1億765万円 |
大阪地判 H21.8.25 |
後遺障害9級10号の被害者(57歳男子)の将来介護費用を平均余命期間にわたり、日額¥4,000で認めた事例 | 将来の介護費用: 約2,015万円 |
自動車事故により後遺症が残った場合、日常生活に支障が生じることから、身体機能を補うための器具や、住宅の改造が必要となる場合があります。このような器具の購入や、住宅改造に要した費用は、後遺症の程度や生活環境等を考慮して、身体機能を補うために必要かつ相当な限度で、賠償が認められます。
裁判例としては次のようなものがあります。
裁判年月日 | 事例 | 賠償額 |
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名古屋地判 H14.1.28 |
遷延性意識障害の18歳男子の症状固定後の装具等について、車椅子については5年ごと、電動ベッドについては8年ごと、福祉自動車については10年ごと、足調整具については3年ごとの買換が必要であるとして器具等購入費を認めた事例 | 約1,238 万円 |
仙台地判
H21.11.17 |
後遺障害1級の被害者の介護器具購入費について、加害者側が介護器具の購入にあたっては公的扶助の存在があることを主張したところ、公的扶助の存在をもってその認定額を覆すのは妥当でないとした事例 | 約1,608万円 |
裁判年月日 | 事例 | 賠償額 |
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名古屋地判 H15.3.24 |
後遺障害1級3号の被害者(60歳男子)が、事故から約3年後に、充分な介護を受けるため、通院の利便性や介護者の負担などを考え、マンションを購入した際に、住宅改造費としてマンション購入費用の10%を事故と相当因果関係を有する損害と認めた事例 | 379万円 |
名古屋地判 H17.5.17 |
後遺障害1級3号の被害者(33歳男子)の損害として、家屋床面積の拡大工事、エレベーター設置工事等、家屋改造費用約1,025万円を認め、天井走行リフター設置工事、段差解消機設置工事、エレベーター修理工事等、将来の家屋改造費として、約243万円を認めた事例 | 住宅
改造費: 約1,025万円 将来の家屋改造費: 約243万円 |
東京地判 H19.5.30 |
事故により遷延性意識障害となった被害者(症状固定時22歳)の自宅に設置されたエレベーター取替費用、その保守点検費用を平均余命分認めた事例 | 約2,216 万円 |